設立趣旨・理事長ごあいさつ

設立趣旨

 東京電力福島原子力第一発電所の事故は大規模な環境放射能汚染を引き起こし、その対策は現在我が国の抱える最大の環境問題になりました。国民の安全を守るため除染が急がれます。

 旧来の放射能除染は、主として放射性アイソトープを用いる研究室や事業所での小規模の放射線漏洩に対応したものでありました。しかしながら、今般の放射能汚染は、極めて大規模で、且つ広く分布し、放射能のリスクに対する社会的不安が拡大していること、重要といえども、無限に費用をかけることは出来ないこと、放射性廃棄物の受け入れについての住民合意形成の必要なこと、そして汚染物の減容化や更には福島の事故施設に残る膨大な放射能の封じ込め等に新しい技術が必要であることを考慮するとき、旧来の学問領域を超えて色々な分野の専門家が集まり、議論と情報交換が出来る場が必要であります。

 本学会は、環境放射能の除染に向けて国際性を持った総合科学的学術団体として発足するものです。 放射化学、土木学、水環境学、廃棄物学、環境化学、環境法学、無機化学、環境経済学、リスク学、放射線生物学、等々、多くの基礎科学、および応用科学の参加のもとで展開をしていく予定です。

 

名誉会長 森田 昌敏

 


理事長あいさつ

 大迫理事長写真最新.jpg2011年の東日本大震災をきっかけに起こった福島第一原発事故により、福島県を中心に東日本広域に放射性物質による環境の汚染が生じました。原発事故により汚染は人口密集地域まで広域に及び、これほどの多くの人口が影響を受ける事象、「環境放射能」の問題は、人類にとっても未曽有のものであったと言えます。そして、その対処の第一段階が、生活環境における被ばく防止のために「除染」を行うことでした。当学会は、「環境放射能」と「除染」という象徴的な言葉を名称として、2011年11月に任意団体としてスタートしました。

 当時は、汚染事象の科学的な理解のための知見も乏しく、また、指針とすべき法制度も整備が始まったばかりで、対策のための技術も十分ではありませんでした。そのような中で、関連する研究者や技術者、行政などの「人」と「知」が結集される場として、当学会が果たした貢献本は極めて大きく、事故後11年余の経過のなかで、環境再生の歴史的な役割を担ってきたと自負しています。

 これまでの経過を振り返るとき、本学会を設立した初代理事長である森田昌敏先生(現名誉会長)の情勢を見極める洞察力と先見性、強い使命感には、畏敬の念を抱かざるを得ません。そして、このたび私が当学会の理事長の任を引き継ぐことになり、その重責を感じているところです。

 本学会を取り巻く状況も変化し、環境再生の取組みは新たなフェーズに入っています。除染、そして生じた除去土壌や廃棄物の処理、中間貯蔵へと環境再生は、幾多の苦難を経ながらも、多くの関係者の努力により、着実に前進し、これからは、県外最終処分に向けた減容化・再生利用の技術開発、県外最終処分を含めた国民的理解醸成、というフェーズに入りました。また、被災地の創造的復興も同時進行で進められるべき重要課題となってきています。

 このような背景のもと、本学会も新たな展開を模索しつつチャレンジしなければなりません。学会の正式名称も「一般社団法人 環境放射能とその除染・中間貯蔵および環境再生のための学会」(通称名は「環境放射能除染学会」のままとしています)に2018年に変更しました。国の環境再生事業を科学的側面から先導する役割はもちろんのこととして、様々なステークホルダーとの連携のなかで、学会の新たな存在意義も見出していく必要があります。そのために、学会のすそ野をさらに広げ、異なる専門分野との横断的な取組みも一層大事になると考えています。また、日本の経験や教訓を、学として体系化し、国際的に発信していくなど国際的視野をもって積極的に取り組んでいくことも重要です。

 学会員各位のこれまでの多大なご支援に改めて感謝申し上げるとともに、引き続き、環境放射能問題からの環境再生、復興、そして人類未曽有の災禍を乗り越え、強靭で持続可能な社会づくりにも役立てるよう、本学会の発展に是非ともお力をいただきますよう心からお願い申し上げます。

 

理事長 大迫政浩(国立環境研究所)